結婚披露宴で欠かせないもののひとつに「音楽」があります。音楽が披露宴のさまざまなシーンにマッチすると、盛り上がったり、感動が増したり、各場面がよりいっそう印象深くなります。そんな音楽の効果は絶大です。

そのため「入場の音楽はどんな曲にしよう」「あの場面でふたりの思い出の曲を使いたい」など音楽にこだわる人は多いです。しかし、音楽にはその音楽を作った人が、音楽を使いたい人に使用を認めたり、禁止したりすることができる「著作権」という権利があります。

普段、何気なく聴いている音楽を、もし披露宴で使いたい場合はどうなるのでしょうか。自分が個人的に音楽を楽しむことと、多くの人がいる場所で音楽を使うことでは、やはり状況が変わってきます。

音楽には、曲を作った人や、演奏する人、出版する人などが存在します。そして、そのような人たちは「知的財産権」という権利をもっています。創作した人が生み出した作品を、財産として一定期間、保護するという権利が知的財産権で、その中のひとつに著作権があります。

つまり、披露宴をおこなう際、無断で音楽を使用すると「著作権法」という法律に触れてしまう可能性があります。「悪意はなかった」「知りませんでした」で済まない場合、罰金が課せられることもあります。

自分たちの新しいスタートの1日が法律違反になってしまうことは、誰も望みません。法律はとても難しいものですが、せめて最低限の知識だけはもっておきましょう。

それでは、法律に触れることなく、好きな音楽で満足できる披露宴にするために気を付けるべきことをみていきましょう。

ここからは、結婚式や披露宴で使用する音楽の著作権について学んでいきます。

婚礼で使用する音楽の著作権

婚礼で関わってくる著作権には、音楽の利用の仕方によって「著作権」「著作隣接権」という2種類の権利があります。

・著作権

著作権は音楽の作詞者、作曲者など「音楽を作る人」の権利のことをいいます。

・著作隣接権

著作隣接権とはレコード会社や歌手、演奏家など「音楽を伝える人」の権利のことをいいます。

音楽の利用方法によって申請が必要

また、音楽の使用方法にも2種類あります。それは「演奏利用」「複製利用」の二つです。この利用の仕方によって、それぞれ申請が必要な場合があります。これから二つの違いについてみていきます。

①演奏利用

ブライダルにおいての「演奏利用」とは主に3つあります。

・生演奏で利用する(結婚式・披露宴で演奏したり、歌ったりすること)

・録音物を再生する(CDをBGMとして流す・カラオケ機材を利用する)

・上映(プロフィールムービー上映の際に流れる音楽)

以上のように「音楽を流す」という使用方法のことを「演奏」といいます。演奏利用については、ホテルや結婚式場などの施設が著作権の手続きをしています。個人でおこなうパーティーの場合は、3つの条件を満たせば著作権の手続きは不要です。

その3つとは「営利目的ではない場合」「集まった人から料金を徴収しない場合」「演奏したり歌を歌ったりする人に報酬が支払われない場合」です。これらをすべて満たす場合には、申請はなしでよいです。

演奏利用については会場側が著作権の手続きをしているため、個人での手続きの心配は基本的にありません。問題は以下に記載する「複製利用」についてです。

②複製利用

「音楽が入った録音物・録画物をつくる」とき、これを複製利用といいます。結婚披露宴での複製利用には、具体的に3つあります。

・BGM用の録音物(披露宴のBGM用に、音楽をCDにコピーする)

・演出用の録画物(プロフィールムービーやエンドロールムービーのDVDに録音される音楽)

・記録用の録画物(披露宴の模様を収録したDVDに録音されるBGMなどの音楽)

以上のように、音楽をコピーすることが「複製」にあたります。

複製する際に、もうひとつ注意が必要なことがあります。それは「市販の音源を利用」することです。レンタルショップで借りたCDや、ダウンロードした音楽は私的利用以外の利用が認められていない場合がありますので注意しましょう。

ほかには、生演奏した音楽を録音して使用する場合も、著作権手続きが必要です。

こうした「複製利用」に関する手続きを個人でする場合には「ジャスラック」という音楽著作権協会と「レコード会社」にそれぞれ申請する必要があります。

一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC:ジャスラック)

ジャスラックというのは、国内の作詞者、作曲者、音楽出版者などの権利をもつ人から著作権の管理を委託されている団体のことです。音楽を使いたい人が簡単に著作権の手続きができるように窓口となっています。ジャスラックが管理している作品を使用する場合はこちらに申請をします。

このような管理団体は他にも数団体ありますが、ジャスラックの設立年数がもっとも古く、取り扱う楽曲の数も非常に多いです。

しかし、自分で申請しなくても代わりに申請をおこなってくれる場合があります。ホテル・結婚式場、またはDVDなどの記録物・録画物を作成業者がおこなう場合です。このような業者がジャスラックへの利用報告と支払い手続きを行ってくれます。

一般社団法人音楽特定利用促進機構(ISUM:アイサム)

ホテル・結婚式場や録画物の作成業者と、ジャスラックの間に入って手続きを代行する団体があります。2014年にスタートしたアイサムという団体で、アイサムがジャスラックや、レコード会社への利用報告と支払い事務を代行しています。

アイサムには個人で手続きをすることはできません。そこで、アイサムにはブライダル業者から手続きをしてもらいます。そして、アイサムがジャスラックやレコード会社に手続きをおこないます。

そのため、DVDを業者に作ってもらう場合は、その業者にアイサムへの料金を支払うことになります。このように「複製利用」の際の手続きは非常にわかりづらい仕組みになっているのです。

では、ここからは音楽を使って複製利用した場合の著作権料をみていきましょう。ここでの音楽については「ジャスラックの作品データベースに載っている音楽」で話を進めていきます。

なぜなら、日本でリリースされている音楽の多くをジャスラックが単独で管理しているからです。(他の管理事業者が管理する音楽や、外国の音楽などについては、別の管理事業者に許諾を得る必要があります)

なお、アイサムに申請済みのDVDには、専用のシールを貼ることができます。ホテルや結婚式場などでは、アイサムに申請済みではないDVDの持ち込みを禁止しているところがあります。

気になる著作権料はどのくらいかかるのか

まず、曲は5分で1曲とみなされます。5分以下の曲なら1曲、それ以上は5分枚に1曲ずつ加算されます。7分の曲なら2曲、11分の曲なら3曲という扱いになります。

さらに、冒頭で紹介したように著作権には2種類あることから「著作権料」「著作隣接権料」がそれぞれかかります。具体的な金額を計算してみましょう。

例①:5分未満の曲を1曲使い、プロフィールDVDを1枚製造した場合

・1曲あたりの著作権料 200円

・1曲あたりの著作隣接権料 2000円

この2200円に、アイサムの10%システム料というのが加算されますので、合計金額は2420円となります。

例②:5分未満の曲を3曲録音し、BGMで流すためのCDを1枚製造した場合

・1曲あたりの著作権料 200円

・1曲あたりの著作隣接権料 2000円

2200円×3曲分=6600円に、アイサムの10%システム料で、合計金額は7260円になります。

プロフィールDVDを自作した場合

自分自身で映像を作成し、音楽を挿入してDVDを作った場合はどのようになるのでしょうか。自分で作った場合でも著作権・著作隣接権の手続きは必要になります。

このとき、手続きの方法としてはふたつあります。自分でジャスラック・レコード会社に手続きをする方法がひとつ。もうひとつは、ホテル・結婚式場からアイサムに申請をしてもらうという方法です。

しかし、先ほどの著作料の計算式で紹介したように、ホテル・結婚式場からアイサムに手続きを頼むと、著作権料にプラス10%のシステム料がかかります。そのため、面倒ですが個人でジャスラックに手続きをするほうが、その分安くなります。

いずれにしても、長い曲や多くの曲を使用してCDやDVDを作る場合、著作権料の関係で非常に高額になってしまいます。ここで、これらの著作権料を安くおさえる方法について紹介します。

著作権料を少しでも安くする方法

まず、BGM用に音楽をコピーしてCDを作ることはやめましょう。なぜなら、コピーという複製利用に対して、たくさんの著作権料がかかるためです。

複製するのをやめて、演奏利用のみにすることで費用をなくすことができます。音楽CDを再生する演奏利用については、ホテルや結婚式場などの会場がすでに手続きをしているからです。

そのため、CDにまとめた録音物を作成するのではなく、市販のCDを何枚も持ち込み再生してもらえば安く済みます。

ただし、先ほども記載したように、持ち込むときの市販のCDはレンタルしたものはNGです。自分で購入したものを用意しましょう。

つぎに、プロフィールDVDに挿入する音楽はなしにし、映像のみの無音のDVDを作成します。そして、市販の音楽CDと無音のDVD映像を同時に再生してもらいます。このようにすることで、DVDに音楽を挿入するという複製利用をしなくて済みます。

同時再生では、どうしても少し映像と音楽がずれてしまうため、音楽にピッタリ合わせなくても大丈夫な内容の映像を作りましょう。

ほかにできる方法としては、著作権フリーの楽曲を使用するという方法です。著作権フリーの曲とは、その曲を作った人が自ら著作権を放棄している曲の場合と、作った人が亡くなって50年以上経った曲があります。例えば、友人が作った曲について、友人がタダで使ってよいといってくれれば、著作権料はかかりません。

どうしても著作権料・著作隣接権料を節約したい人に、以上のような方法があります。

音楽を無断で使用した場合

音楽を無断で使用した場合には、以下の罰が定められています。

「著作権・著作隣接権の侵害は、10年以下の懲役又は、1000万円以下の罰金、又はその両方となる」

これまで見てきたように、音楽著作権料の仕組みや申請方法は非常にややこしいです。それでも、音楽の無断使用には充分注意をして、披露宴の準備を進めましょう。