お寺で挙げる結婚式を「仏前結婚式」といいます。お寺というとお葬式のイメージが強いですが、結婚式を行うことができます。仏前結婚式は神様の前で誓う神前結婚式よりも歴史が古いです。
お寺や葬儀から、仏前結婚式についてしんみりしたイメージをもつ人もいると思います。しかし意外に、黄色や紫の華やかな袈裟をまとった僧侶が結婚式を執り行う仏前式は荘厳で華やかな雰囲気があります。
日本人は葬儀を仏式に則って行う人が非常に多いです。一方、仏前結婚式を挙げる人はかなり少数です。挙式を執り行う場所は、新郎の家の代々の墓がある菩提寺や本山、もしくは専門式場の中に備わる挙式会場で行うことができます。
マイナーな挙式スタイルである仏前結婚式ですが、儀式の内容は神道の結婚式である「神前結婚式」とよく似ています。
日本人にとても馴染みのある宗教施設であるお寺で挙げる結婚式は実際どのようなものなのでしょうか。ここでは、仏前結婚式のもつ意義や式の進め方、注意点を具体的に紹介します。
結婚式の選択肢の一つとして、ぜひ内容を知っておきましょう。
もくじ
仏前結婚式の歴史と挙式の内容
仏前結婚式の歴史は、古くからの日本人の生活の中で自然に生まれてきたものといえます。
日本では古くから自宅で結婚式を行ってきました。自宅の仏壇が置かれている仏間の仏様の前で結婚のちぎりを交わしていました。
二人の縁は前世からの縁
仏教の教えでは「夫婦となる二人の縁は、前世から決まっていた縁である」と考えます。そのため、キリスト式や人前式などの他の挙式と異なり、新たに「誓いを立てる」という意味合いとは少し違っています。
あくまでも既に決まっていた縁に感謝し、先祖・仏様に報告するという儀式です。未来への決意を述べるというより、事実を報告して感謝する心を表明するというのが仏前結婚式の大きな特徴です。
地域と深く関わってきたお寺の存在
仏前結婚式はかつてそれぞれの地域の習慣の中で、様々な形で行われてきました。昔は特定のお寺と結びつきが強く檀家制度が確立されていました。
お寺という場所は墓を守るだけではなく地域住民の中心的存在で、集会やさまざまな村の行事が行われてきました。生まれてから亡くなるまでの人生の節目にはお寺が密接にかかわっていたのです。
その節目のひとつが第二の人生のスタートである結婚式です。お寺では当然結婚の節目にも深くかかわってきました。
現在の仏前式が確立されたのは明治時代
結婚式のプログラムである「式次第」が今のような形に決まってきたのは明治時代になってからといわれています。仏教には多くの宗派がありますが、浄土真宗の仏前結婚式がはじまりです。
仏教の宗派によって式次第は違っていますが「仏様への結婚を報告する」という基本的な考え方は共通しています。
日本で最も人口の多い宗派が浄土真宗です。現在ではお寺と檀家の結びつきををもたない家も多くなっていますが、葬儀の際はその家の宗派で行われるため葬儀の際に改めて自分の家の宗派を確認することになる人が多いです。普段は意識することがなくても、人生の節目では切り離すことができないものです。
少数派の仏前結婚式ですが、結婚式を考える人の中には日本人の感覚にマッチしやすいお寺の結婚式を見直し、取りいれようとする人もいます。
また、既存の専門式場の挙式ではなく自分たちがこれから長く住むであろう土地の神様、仏様を大切にしていこうと考える人もいます。
結婚を考える二人が運命のめぐり合わせの神秘を思うとき、多くの人が「この人と結ばれることは、はるか昔からから決まっていたのかもしれない」という思いを自然に感じることがあるのではないでしょうか。
そのような人には仏前結婚式はとても受け入れやすく、魅力ある挙式スタイルといえるでしょう。
仏前結婚式の具体的な内容と式の進め方
ここからは実際に執り行われている仏前結婚式の挙式の流れをみていきましょう。宗派によってさまざまな違いがありますが、ここでは浄土真宗の挙式のプログラムの一例を紹介します。
なお、挙式を司る司婚者はお寺の場合は僧侶が行います。専門式場などでは僧侶以外にも一般の司会者が進行をする場合もあります。
仏前結婚式の式次第(プログラムの一例)
お寺の本尊の前に焼香台が置かれ、その手前に新郎新婦が揃います。そして、両サイドに新郎家、新婦家の親族が、両親、兄弟姉妹と血縁の濃い順にたて一列に並びます。神前結婚式と基本的によく似た並び方です。媒酌人夫妻(仲人)がいる場合は新郎新婦の後ろに並びます。
・両親、親族一同の入堂
両親、親族の順に入堂して着席します
・開式
・新郎新婦の入堂
新郎新婦、そのあとに媒酌人夫妻(いる場合)、司婚者である僧侶が入ります
・合掌、礼拝
一同が手を合わせ拝みます
・動行
仏前で読経するおつとめです
・啓百文(けいびゃくもん)の朗読
僧侶が焼香したあと、本尊に申し上げる言葉を読み上げ、結婚の報告をおこないます
・司婚のことば
僧侶の問いかけに新郎新婦が答える形式で結婚の誓いを求めます
・記念念珠授与(指輪の交換)
僧侶から新郎新婦へ仏前に供えられている念珠(数珠)が授与されます
結婚指輪の交換を入れることもできます
・新郎新婦による誓いのことば
・新郎新婦の焼香
指でつまんだ香を香炉に入れて合掌します
・司婚者の祝辞
僧侶が新郎新婦にお祝いのことばと法話を述べます
・合掌礼拝(一同)
・誓杯、親族固めの杯
新郎新婦、親族一同が盃に注がれた御神酒で乾杯をする
・閉式
・合掌礼拝(一同)
・退堂
新郎新婦、両親、親族がお堂から退出します
仏前結婚式の衣装は自由
仏前式の衣装は自由です。紋付き袴と白無垢が一般的ですが、色打掛やドレスでもかまいません。参列者は神社で行う神前結婚式と同様、親族のみの参列が基本です。しかし、友人の参列も認める寺院も増えている傾向にあります。
仏前結婚式で授与される念珠とは
式で授与される念珠は、仏と心が通じ合い邪念を消すためのものです。性別や宗派によって色や形、扱い方などが違います。
現在は媒酌人不在の結婚式がほとんど
媒酌人(ばいしゃくにん)というのは仲人のことです。新郎新婦をお世話する段階によって呼び方が変わります。お見合いのときから婚約、結婚式の準備中は仲人と呼びます。そして結婚式・披露宴を行う当日のみ媒酌人という呼び方になります。
日本の結婚では二人の出会いから結婚式まで仲人の存在が深くかかわってきました。お見合い結婚が多かったころは二人の出会いを段取りし、婚約の儀式である結納や、挙式披露宴でも常に新郎新婦の近くで仕切り役をしていました。
お見合い結婚が減少してからも、挙式披露宴の当日は仲人を立てるという形式は残っていました。実質の仲人ではなく形式だけの仲人役のため「頼まれ仲人」などと呼ばれます。上司や恩師、親の知り合いなどの社会的地位の高い人にお願いして仲人をしてもらうという時代もありました。
しかし、形式だけの仲人、媒酌人の存在はしだいに減少します。多くの人が従来からの形だけの仲人、媒酌人を立てることへのわずらわしさを感じ始めました。
また、大手結婚情報誌がいくつも発売されるようになり、若い二人が自分たちの感性で自由に婚礼を作ってもいいのだと気づきはじめました。雑誌やインターネットでかつて考えられなかったほどの情報が得られるようになったのです。
そうした時代の変化によって、「自分たちらしさが大切」「アットホームで肩の凝らないパーティ」などの新しい価値観が広がっていきました。
媒酌人が姿を消した理由はほかにもあります。神前結婚式や仏前結婚式に代わりキリスト式や人前式結婚式が増えたためです。キリスト式、人前式結婚式では基本的に媒酌人の役目が不要です。
また、媒酌人には披露宴で二人のプロフィールを紹介するという役目があります。しかし親が頼んできた媒酌人の場合は新郎新婦にあまりなじみがないため、形式的で堅苦しいだけと感じる新郎新婦が多くなってきたことも媒酌人が姿を消した理由のひとつです。
また媒酌人を頼んだ場合、将来にわたって中元・歳暮を贈り、気を使わなくてはなりません。そのため、わりに合わないと感じる人もいます。
このようにほとんど見られなくなった媒酌人ですが、媒酌人を頼むことにメリットがある場合もあります。
もしあなたがお見合い結婚で、紹介してくれた人があなたたち二人にとってとても尊敬できる夫婦である場合です。結婚式当日も近くでお世話をしてもらいたい、将来末永く見守ってもらいたいと心から思える人ならぜひお願いしてみるのもよいでしょう。
檀家でなくても仏前結婚式は可能
お寺の家に生まれた人や、仏教の信者の人や、特定の寺院に所属している人でなくても仏前結婚式を挙げることはできます。仏教の教えを信じている人であれば大丈夫です。
ただ、注意しておいたほうがよいのは両家がともに仏教徒であっても宗派の確認はしておきましょう。
浄土真宗や浄土宗、真言宗など、仏教には非常に多くの宗派が存在しているからです。その宗派の違いによって、儀式の形式が異なる場合もありますので確認が必要です。
挙式を行う施設を決める際、先祖代々の墓がある菩提寺(ぼだいじ)で結婚式を行いたい場合、そのお寺が仏前結婚式に対応しているかどうか相談にいきましょう。他に希望したい寺院があれば問い合わせてみましょう。積極的に仏前結婚式を行っている有名寺院がたくさんあります。
一般の寺院だけでなく、例えば京都には浄土真宗を建学の精神とする龍谷大学があります。龍谷大学の学舎には礼拝堂があり、仏前結婚式を受け付けています。
このような伝統と格式ある場所を選択肢のひとつとして検討してみるのもおすすめです。
自分で探すのは手間がかかり大変だと思う人は、仏前結婚式を積極的に行っている複数の寺院と関わりのある婚礼プロデュース会社に問い合わせてみるとよいでしょう。
たくさんある仏教の寺院の中で、新郎新婦の宗派、挙式後の披露宴の有無、参列者の利便性などを総合的に考えればよりベストな提案をしてもらえます。
大安・仏滅などは気にするべきか
仏教では日の吉凶を問題にしないため、大安吉日にこだわる必要はまったくありません。
六輝(ろっき)、六曜(ろくよう)と呼ばれる暦はそもそも中国から入ってきた占いがもとになっているものです。科学的根拠はなにもありませんが、参考までに6つの意味を紹介します。
先勝(せんしょう・せんかち):午前が吉、午後が凶。
友引(ともびき):朝と夜は吉とされる。友を引くというので葬儀はしない。婚礼には好まれる日です。
先負(せんぶ・さきまけ):先んずれば負けるという意味。午前は凶、午後は吉。急用は避けるほうがよい日。
大安(たいあん):一日中、吉とされる日。
赤口(しゃっこう・しゃっく):何事も避けたほうがよい日。正午のみ吉。
仏滅(ぶつめつ):すべてが凶とされる日。
以上が六輝の意味ですが、結婚披露宴においても何の関係もありません。実際に影響があるとするなら、このようなお日柄をひどく気にする人が親や親族にいる場合です。仏滅を結婚式に選ぶと「なぜわざわざ仏滅なのか」と非難されることがあります。
このような人間関係に面倒くさい問題が起こる可能性があるだけです。
しかし本来はどの日を選ぼうと二人の将来の幸せには何も関わることはありません。根拠のないものを信じる心があるだけですので安心してください。
挙式スタイルの選択は流行に流されてはいけない
仏前結婚式についてみてきましたが、その意味合いを知ると日本人になじみやすい結婚式であることがわかります。
婚礼というのは比較的短いサイクルで流行が変化します。芸能人や著名人の結婚式はすぐに流行ることが多いです。そのため、ある挙式スタイルが増えたり、減ったりを繰り返します。
大切なことは、「たくさん行われている結婚式だから」という理由や、逆に「あまり行われていないから珍しい」という理由で行う結婚式を決めないことです。
二人と両家の結婚式です。まず新郎新婦であるあなたたちが、しっかりと内容を知って自分たちで決めることが大切です。結婚という世界で唯一の組み合わせである一組の夫婦になるのです。流行などに流されず自分を大切にしながら決断をすることがいちばん大切です。