教会の中央に通る、長い通路をバージンロードといいます。パイプオルガンの演奏の中、純白のウェディングドレスのすそが流れるように美しい結婚式です。「結婚するときはぜひ、バージンロードを歩きたい」と憧れをもつ独身女性は多いのではないでしょうか。
実際、日本で戦後から多く行われてきたのは、神社や式場の神前で行われる神前結婚式でした。しかし、1990年代から神前結婚式は減少しはじめました。そして、神前結婚式の減少にともない増加してきたのが、教会式・チャペルウェディングです。
チャペルウェディングの式場となる教会は、個性的なものがたくさんあります。有名な建築家が造った教会や、伝統的な様式の教会もあれば、全面クリスタルキューブのチャペルや、水が流れるチャペル、全面ガラス張りの窓の向こうに青い海が広がるチャペルなど建物の多様性が魅力です。
ホテルの一室に設けられたチャペルもあれば、敷地内に独立型のチャペルをもつホテルもあります。また、建物の種類だけでなく、教会式の儀式の内容やスタイルはじつにさまざまです。
そこで、日本で教会式・チャペルウェディングを挙げることを考える際に、知っておくべきことをみていきます。儀式の背景にある考え方を知ることで、自分たちがどのようなスタイルを選択することがベストなのかを見極めることができます。
もくじ
日本人が挙げている、教会式・チャペルウェディングとは
今や日本で、教会式・チャペルウェディングはもっとも多くおこなわれている結婚式となっています。日本人のキリスト教の信仰率は1%前後です。それにもかかわらず、家に仏壇や神棚がある人でも違和感なく教会式を挙げています。
実際、日本人が多く挙げている教会式は、新郎新婦が特別の信仰をもたない「教会式」、「チャペル式」です。チャペル式はキリスト教式の形式を模倣した儀式で、本来の意味の宗教的儀式ではありません。
では、海外挙式で日本人が現地のチャペルで挙げている結婚式はどうなのでしょう。これは、「祝福式」というお祝いのセレモニーであり、やはり宗教的儀式とは違います。
そのため、日本人が行うほとんどのキリスト教式とよばれている結婚式は、宗教的な規律が柔軟なプロテスタントの牧師がおこなっているのです。
キリスト教の結婚式を学ぶ
キリスト教は、信者数が世界最大の宗教で、世界人口の3割以上を占めているといわれています。キリスト教と一口にいっても、宗派がたくさんあります。
なぜ、宗派がたくさんに分かれたのかというと、イエス・キリストの弟子がいろいろな解釈をしたために、それに賛同する者と、反発する者が出てきたからです。長い歴史の中で、キリスト教は分裂を重ねてきました。
しかし、キリスト教は宗教そのものが「愛の宗教」であり結婚を奨励しています。結婚すること自体が、宗教的な行動になっているのです。
それではこれから、キリスト教の宗派による教えと、結婚式についてみていきます。
カトリック
キリスト教の最大宗派であるカトリックは、ローマ教皇をトップにした、ピラミッド型の組織です。イタリアのローマの、バチカン市国を中心地としています。
上の写真は、バチカン市国のサンピエトロ大聖堂とサンピエトロ広場です。
カトリックの結婚式は、世界でもっとも美しい結婚式といわれています。壮麗な建築様式の、美しいステンドグラスで飾られたカテドラル(大聖堂)で行われます。儀式の進行は司祭が、宗教形式にのっとって行います。
カトリックの教えでは、結婚は「神の恵みを人間に与える儀式」で、信仰のなかで大きな意味をもっています。そのため、信者同士の結婚が原則です。カトリックで語られる「愛」とは、恋愛や夫婦の愛ではなく「神の愛」です。
いったん愛を誓い合った夫婦が離婚することは、神との関係の裏切りであることから、誓いを破ることは許されません。このようにカトリックの結婚式は、非常に厳格な儀式です。当然、再婚者の結婚式は受け付けません。
・カトリックの結婚式・式次第(式のプログラム)の一例
〈開祭〉
入堂
司式者あいさつ
はじめの祈り
〈ことばの典礼〉
第一朗読
答唱詩編
アレルヤ唱
福音朗読
説教
〈結婚の儀〉
司式者より導入のことば
結婚の意志の確認
結婚の誓約
結婚成立の宣言
指輪の祝福
指輪の贈呈
署名
共同祈願
主の祈り
結婚の祝福
聖餐式
〈閉祭〉
祈り
結びの祝福
結びのことば
退堂
プロテスタント
16世紀に起きた宗教改革で、カトリックから離脱した宗派がプロテスタントです。プロテスタントは「抗議」という意味で、保守的なカトリックに対抗して生まれました。プロテスタントの中にもさまざまな教派があり、独自の教義をもっています。
プロテスタントの代表的な教派のひとつが、「ルーテル教会(ルター派)」です。ドイツを中心に広がり、バッハやヘンデルが多くの宗教音楽を作りました。
カトリックの式よりも規律がやさしく、シンプルな結婚式が特徴です。
イギリス国教会
16世紀にカトリックから離脱した教派です。離脱のきっかけについては、英国の暴君、ヘンリー8世が「自身の離婚が、カトリックに認められなかったため」という理由が知られています(彼は6度、結婚をしたそうです)。教義に反発したのが離脱の原因ではないので、教義そのものはカトリックの教えを踏襲しています。
ちなみに、イギリスでは皇太子が離婚(チャールズ皇太子とダイアナ妃)したことがあります。カトリックのような厳格さは薄れているようにも思えます。
また、イギリスでは国民の宗教離れにより、「シビルマリッジ」という、登記所で結婚を登録するだけですませる夫婦も多いそうです。
改革長老教会(カルヴァン派)
カルヴァン派とは、ジャン・カルヴァンという宗教改革者が、スイスを中心におこした教派です。カルヴァン派では教会に長老と牧師をおきました。カトリックと違って、蓄財を否定しない教派です。
バプテスト派
バプテスト派は、17世紀にイギリス国教会から分離した、アメリカのプロテスタントで最も多数派の教派です。聖書至上主義など他のプロテスタントと比べると柔軟なところが特徴です。
正教会
正教会は「東方教会」とも呼ばれています。ローマを中心にした「西方教会」に対して東方で確立した教派です。「ロシア正教会」などと、地名を付けて呼ばれます。規律は厳しく、離婚や異教徒どうしの結婚は認めていません。
日本でキリスト式結婚式を行うにあたって
これまでみてきたように、キリスト教において結婚とは、神という絶対的存在に対して誓うものです。単にふたりの間や、家族の問題ではないことがわかります。日本でおこなう教会式・チャペルウェディングであっても、結婚の誓約を交わすとき少しでもキリスト教的な重みと厳しさを感じながら、誓いをたててみてください。
結婚の儀式は、決してファッション性だけでおこなわれるべきものではないということを感じられることと思います。日本では、宗教をあまり意識していない人が多く、雰囲気で教会式を選ぶ人が多いです。
ここまで浸透してきた日本の教会式は、日本の地で熟成した、とても日本人らしい結婚の儀といえます。
良くも悪くもこだわりをもたず、異教の文化を自国流にアレンジし、発展させてしまうところが日本人のユニークなところです。教会式という儀式の中に、日本人の柔軟性が感じられます。
本物の教会でキリスト式を行う方法
では、日本でキリスト式を挙げるとき、ホテルの所有するチャペルではなく、「信者がお祈りにいく、プロテスタントやカトリックの教会でキリスト式をする」ことは可能なのでしょうか。キリスト教の信者ではないふたりが、宗教的な儀式としてのキリスト式に臨む場合についてみていきます。
まず、プロテスタントの教会は、近隣の披露宴ができる施設と提携していることがありますので、比較的簡単に結婚式を行うことが可能です。また、プロテスタントの結婚式は場所を選びません。ガーデンのような屋外の場所でも、牧師がいればどこでも挙式が可能です。
日本で伝統的なプロテスタントの結婚式を望む方は、キリスト教のブライダル協議会加盟団体などに相談するという方法もあります。
日本の教会式・チャペルウェディング(プロテスタント)
それでは以下に、日本でよく行われているプロテスタントの教会式の進行をみてみます。
・式次第の一例
<開式>
新郎新婦入場 -新郎新婦が会場内に入場します
結婚の同意 -牧師がふたりに結婚の意志を確認します
開式宣言 -牧師が開式を宣言します
讃美歌 -「いつくしみ深き」讃美歌312番
聖書朗読 -「新約聖書 コリントⅠ 第13章」
説教 -「説教題」本当に大切なもの
<誓いの儀>
誓約 -神と証人の前で、互いに結婚を誓います
指輪交換 -誓いのしるしとして、互いに指輪を交換します
祈祷 -ふたりの誓いが永遠に守られるよう祈ります
署名 -結婚誓約書に署名します
結婚宣言 -ふたりが夫婦となったことを牧師が宣言します
讃美歌 -「妹背をちぎる」(讃美歌430番)
<閉式>
祝祷 -牧師が祝福の祈りをします
新郎新婦退場 -新郎新婦が未来にむかって歩き出します
後奏
・讃美歌とは礼拝などで歌われる神を賛美する歌のことです
・祈りの際は目を閉じ、頭を少し下げます
・「アーメン」とは「本当にそう思う」という意味です
一方、プロテスタントとは違い、カトリックはとても規律が厳しいです。しかし、中には壮麗で美しい大聖堂での結婚式を夢見る人がいます。そして実際、日本にあるカトリック教会では、信者ではない人の結婚式を受けつけてくれる教会があります。
カトリック教会で結婚式を挙げるには条件がある
カトリック教会で結婚式を挙げる場合は原則として、二人がともに信者か、または二人のうちのどちらかが信者という決まりです。ただ、条件を満たせば信者ではないふたりでも、挙式が可能なカトリック教会があります。その条件は主にふたつあります。
・二人ともに初婚であること
・教会が行う、結婚準備講座を受講すること
以上の条件がそろえば受け入れてくれるカトリック教会はあります。どうしても結婚式を挙げたい教会がある場合は、直接問い合わせてみましょう。
では、以下で本物の教会で結婚式を挙げることのメリットとデメリットをみていきます。両方を比較して、しっかり考えてから決めましょう。
カトリック教会で結婚式を挙げるメリット
本物のカトリックの大聖堂で結婚式を行うメリットとしては、施設の重厚さや荘厳さではないでしょうか。また商業施設のチャペルと違って、将来にわたって長く建物が残ります。神社仏閣が何千年、何百年と続いているのと同じ理由です。
結婚してから数年たって、思い出のチャペルを見にいこうと訪れてみる人もいると思います。しかし、商業施設の結婚式場の場合、廃業や移転などで建物そのものが無くなってしまう可能性があります。実際、数年で営業不振におちいり、やむなく撤退することは現実にあります。
また、面倒くさいと感じるかもしれない「結婚準備講座」の受講も、将来的にはプラスになることもあるでしょう。末永く幸せな家庭を築いていくために、二人で一緒に勉強の機会をもつことは、いちばん大切なことかもしれません。
カトリック教会で結婚式を挙げるデメリット
街の教会で挙げる結婚式には、それなりのデメリットもあります。
まず、献金とよばれる挙式費用のほかに、さまざまな費用がかかります。たとえば、挙式の際の演奏や、歌を担当してくれるオルガニストやソリストへの謝礼です。
また、ドレスやベールをなおしてくれる介添えの人の有無も、確認しておいたほうがよいでしょう。結婚式では着慣れないドレス姿できれいに移動しなければなりません。介添えが挙式代金に含まれているのかどうかの確認が必要です。
他には、支度のための部屋が教会内にあるのかないのか、確認が要ります。ない場合は、自分で近隣のホテルの一室などを押さえておくなどの準備が必要です。他には、写真やビデオの業者を自分で持ち込むことを認めてくれるかわからないので、このようなことまで事前に考えておくことが大切です。
さらに、もし披露宴の日程を先に決めている場合、同じ日に挙式を希望しても、日程が受け付けられないこともあります。先に他の行事が入っていたり、司祭の都合が合わなかったりなどの理由で断られる可能性があることを知っておきましょう。
やはり、宗教施設であることから、結婚式場やホテルに備わっているような便利な設備はありません。また挙式後、披露宴を行う場合はバスやタクシーの手配など、移動手段も考えておかなければなりません。
以上のようなデメリットを受け入れても、カトリック教会を希望するのであれば問題ありません。しかし自分がデメリット回避のための手間暇をかけてもよいと本当に思えるのか、後悔しないためには事前にしっかりと考えて判断する必要があります。