結婚式を検討するとき、神社で結婚式を挙げることを考える人がいるのではないでしょうか。

雅楽の演奏が聞こえる清らかな空気の中、神社の拝殿で新郎新婦が夫婦となることを神様に報告するのが神前結婚式です。大昔から日本人になじみの深い神社で行うため、とても伝統的な結婚式というイメージがあります。

しかし、神社での結婚式が庶民に普及したのは戦後からです。

それまでは、花婿の自宅で結婚式を執り行っていました。自宅の床の間に「天照大神」などの神様の名前を書いた軸を掛けて、その神聖な座敷で結婚式を挙げていたのです。

他には、花婿の自宅で神様を祀らずに、親戚や近隣の人々が集まり「祝言(しゅうげん)」というスタイルの結婚式をしていました。祝言の儀式の中心は「三々九度」です。

三々九度は大中小三つの杯で、それぞれ三回ずつ交互に酒を飲む作法で行います。3という吉数を重ね、めでたい数をあらわしています。三々九度のあと、お祝いの宴が続いて行われます。

このような自宅で行う婚礼は昭和初期まで行われていました。

ただ現在では、床の間のない家や、自宅に参列者を招くスペースがないなど、日本の住宅事情による理由から、ほとんどの人が神社や式場など外の施設で結婚式を行うようになりました。

そこで、神社や式場の神殿で行う神道の結婚式である、神前結婚式について紹介します。

神前結婚式のはじまりと儀式の進め方

意外にも神前結婚式の歴史はとても浅く、近代になってから創られた比較的新しい結婚式のスタイルです。現在の神前結婚式が創案されたのは明治になってからのことです。

当時の政府は、西洋で行われていた婚礼儀式を意識しており、日本では神道を普及させようという思惑がありました。そこで、神前結婚式を創ったのだという説や、民間人に結婚の制度を広くすすめたいという狙いがあったという説などありますが、本当のことはよくわかっていません。

はじめて行われた神前結婚式

神前結婚式の式次第(儀式の進行表・プログラム)が作られたのは明治の終わりごろといわれています。

神前結婚式のはじまりには諸説あります。その中でもっとも一般的に知られている説として、神前結婚式を最初に挙げたのは、1900年(明治33)5月10日、当時の皇太子嘉仁(よしひと)親王殿下(大正天皇)と九条貞子姫(貞明皇后)の婚礼といわれています。宮中三殿の賢所(かしこどころ)で執り行われました。

余談ですが、大正天皇は当時、一夫一婦制という制度がなかったにもかかわらず、貞明皇后ただ一人しか妻をもたなかったそうです。

この成婚を記念して、1901年(明治34)に日比谷大神宮(現在の飯田橋・東京大神宮)で模擬結婚式が行われました。日比谷大神宮の宮司が式次第を創案し、普及につとめたことから民間でも神前結婚式への関心が急速に広まりました。そしてその翌年、同じく日比谷大神宮において、一般人で初めての神前結婚式が行われたといわれています。

その後、大正時代になってますます神前結婚式が広まりはじめました。この頃は資産家や、社会的地位の高い人たちが神社で結婚式を行い、その後ホテルで披露宴を催すのがステータスでした。

1923年(大正12)9月1日、関東大震災の被害で、日比谷大神宮など多くの神社が倒壊・焼失しました。このような状況のもと当時、帝国ホテル支配人だった犬丸徹三が新しい婚礼サービスとして、ホテルの中で結婚式と披露宴をセットにして提供することを思いつきました。

戦後の結婚式

戦争が終わって間もないころは、物資の不足で三々九度のお酒は配給でした。

戦後は、結婚式を挙げられなかった人や、戦地から引き揚げてきた人、家が焼けてしまった人たちが大勢いました。そのような人に結婚式の場を提供しようと、明治神宮の式場として明治記念館が公開され、結婚式を行いました。その後、明治記念館は戦後を代表する結婚式場になりました。

1947年(昭和22)婚姻率は戦後もっとも高くなりました。その後、第一次ベビーブームが起こり、団塊の世代とよばれる子供たちが生まれました。婚姻数が増えるにしたがい、結婚式も増加していきました。

婚姻数が増えたことで、公共の式場が次々にオープンしました。また冠婚葬祭の互助会という、毎月積立金を払い婚礼や葬儀にそなえる会が設立され、互助会が運営する「平安閣」や「玉姫殿」などの式場がオープンしました。

そして各地のホテルでは結婚式に力を注ぐようになり、ホテルでの結婚式が一般大衆に広がりました。

神前結婚式の儀式の進め方

神官の指示で厳かに進められる神前結婚式には、ひとつひとつの動作に深い意味があります。神社によって神前結婚式の進行や内容は異なることもありますが、以下に主な儀式を掲載します。

神前結婚式を行いたいと考えている方はぜひ、その奥深い意義をかみしめながら、誓いを立ててください。

参進の儀(さんしんのぎ)

結婚式の最初に行うのは、控えの間から神殿に向かって進んでいく儀式です。斎主(さいしゅ・神事をつかさどる神職の方)、巫女(みこ・神に仕える女性)などを先頭に新郎新婦、両親、親族と行列をつくり進みます。

手水の儀(てみずのぎ)

柄杓の水で手と口を清めてから社殿に入ります。

修祓の儀(しゅばつのぎ)

斎主が御幣(ごへい)という、白い紙を木の串に挟んだ神祭の用具で、参列者を祓い清める儀式です。

斎主一拝(さいしゅいっぱい)

斎主が神殿にお参りします。

祝詞奏上(のりとそうじょう)

斎主が神様に大和言葉で祝詞を奏上します。ふたりの結婚を報告し、神のご加護を祈ります。

三献の儀(さんこんのぎ)

三々九度と呼ばれる作法で大中小3つの盃でお酒を飲む儀式です。新郎新婦が交互に三回ずつ飲み交わします。

一の盃(小) 新郎→新婦→新郎

二の盃(中) 新婦→新郎→新婦

三の盃(大) 新郎→新婦→新郎

巫女が三方に大中小の盃を重ねてのせ、新郎新婦の前で御神酒(おみき)を注ぎます。飲むときは三度口をつけ、三度目に飲みます。御神酒は飲み干さなくてもかまいません。お酒を飲めない人は、飲む真似だけで大丈夫です。

同じ盃でふたりが何度も飲み交わすことで、夫婦の契りを結びます。

誓詞奏上(せいしそうじょう)

新郎新婦が誓いのことばを読み上げます。

・誓詞例文

「今日のよき日に、〇〇大神の大御前において、私たちは結婚式を挙げます。今後はご神徳のもと、相和し、相敬い、苦楽を共にし、明るく温かい生活を営み、終生変わらぬことをお誓いいたします。なにとぞ、幾久しくお守りください」平成〇〇年〇月〇日 夫(名前) 妻(名前)

玉串奉奠(たまぐしほうてん)

玉串と呼ばれる榊(さかき)の枝を神前に供えます。斎主から玉串を受け取り、神前に進みます。玉串の向きを変えて、葉先が手前、茎が奥になるようにしてから、玉串案に捧げます。そして二拝二拍手一拝の作法で拝礼をして元の位置に戻ります。

指輪交換の儀

夫婦の証である結婚指輪を交換します。本来は西洋由来のしきたりですが、最近では神前式で取り入れられる場合が多くあります。

親族盃の儀(しんぞくはいのぎ)

両家が親族として、末永くお付き合いをしていくという意味を込めて乾杯します。

斎主一拝(さいしゅいっぱい)

参列者が神前に拝礼して式が結びとなります。

上記の図とイラストではそれぞれの位置を示しています。神前に向かって左が新婦、右が新郎の席です。そして両サイドに新郎の親族と新婦の親族が一列に並びます。神前に近い方から血縁の濃い人の順番に並びます。

神前結婚式は好みでアレンジできない

神前結婚式は上に記載の通り、古式ゆかしい作法と式次第にのっとり執り行われる儀式です。そのため、基本的にオリジナリティを加えることはできないと思ってください。

例えば、「指輪交換の儀」は後から西洋の儀式を取り入れたものであるため、指輪交換の儀を入れるか入れないかであれば希望が通ります。しかし、それ以外は伝統を重んじる儀式のため、自由度は低いです。このような厳格さが神前結婚式らしさといえます。

神社に自分で直接結婚式を申し込むことも可能

和婚の魅力により、本格的な神社での結婚式を望む人はたくさんいます。では、神社で結婚式を挙げたい場合どのように申し込めばよいのでしょうか。

まず、直接神社の社務所にいって申し込む方法があります。しかし神社はさまざまな年中行事があります。例えばお宮参りや七五三、地元のお祭りなどが優先されるので希望の日時に予約できるかどうかわかりません。

ただ、地元密着の神社ばかりではなく、結婚式を主に取り扱っている神社もあります。要は、地元の祭りよりも結婚式開催を優先させることができる神社が存在しているのです。

こうした神社の場合、近隣の披露宴を行えるホテルやレストランと提携している場合もありますので、披露宴を行う会場(ホテルやレストラン)から神社へ挙式の申し込みをしてもらえます。

また、ブライダルプロデュース会社と提携している神社があります。中には和装や神社での結婚式に特化したプロデュース会社もありますので、ホテル内の神殿ではなく、一般の神社での結婚式を希望する場合は、和婚専門のプロデュース会社に相談してみましょう。

神社で結婚式を挙げる場合の注意点として「神社は結婚式だけを目的とした施設ではないため、控室や参列者の待合場所など設備が整っていない神社がある」ということです。そのため自分で申し込む場合はそのような設備を補う方法まで考えておかなければなりません。

そういった不便さを事前に確認し、どのように補うかというノウハウをもっている専門プロデュース会社を利用するのが安心です。また、プロデュース会社に依頼する他のメリットとしては、衣装のレンタルやヘアメイク、写真撮影の手配などトータルで頼めるところです。

さらに式後に披露宴を行う場合、近隣のホテルやレストランで披露宴を行ったり、神社の敷地内にある施設で披露宴を行ったりする場合もあります。神社内の建物で行うときは、飲食物と配膳スタッフの手配が別途必要ですので、個人で手配をするより、プロデュース会社にまかせるほうが便利です。

神社婚には友人は参列できるのか

チャペルで挙げる結婚式には友人の参列が可能ですが、神社の結婚式では「友人の参列が可能な神社」と「参列が不可の神社」があります。ただ、全体的にみて参列可能な神社はとても多くあります。

もちろん神社によっては、儀式の中に「親族盃の儀」という両家親族がお酒を飲み交わす儀式があるため、参列は親族のみとしている神社があります。しかし今は友人席を設けている神社もありますので、友人にも神社での結婚式を見守ってもらいたい方は確認してみることをおすすめします。

神前結婚式の魅力

キリスト式や人前式の挙式時間が20分間ほどであることに比べると、神前式での挙式にかかる時間は約40分とかなり長いです。式次第にはたくさんの儀式があり、手を使って繰り返し動作を行う作法が特徴的です。

二人と親族が斎主の指示のもと、繰り返し同じ動作を行い、これによって夫婦となることへの決意がより強固に結びつき、夫婦の絆が固まるとされているのが神前結婚式です。

神前結婚式の独特の様式美は他では体験できない、特別な儀式です。和婚を希望する方は、まず着物という衣装に対して魅力を感じている方が多く、そのような方がたくさん神前結婚式を選択しています。

確かに白無垢の花嫁衣装をはじめ、着物は日本人の体形や肌の色によく似合い、とても美しいものです。しかし衣装だけでなく、神前式のひとつひとつの儀式の意味合いを感じ、確かめながら、ぜひ素晴らしい夫婦のスタートを迎えてみてください。