結納とは、婚約の形のひとつです。結婚を決意した二人と両家が一堂に会し、結納品という縁起の品物を贈る儀式です。恋人同士だった二人が婚約者となるセレモニーです。

結納は日本独自の結婚にまつわる風習で、古くから行われてきました。現在では、昔ほど形式ばった結納式を行うことは少なくなりましたが、地方では今でも昔からの風習が残っている地域もあります。

また、結納の儀式を省略し、両家の顔合わせと結婚に向けての打ち合わせのための食事会の場を設けることがよく行われています。

省略されることが多くなってきている結納ですが、中にはけじめのセレモニーとしてきちんとおこないたいと考える人がいます。

結納をおこなうには準備や費用の面で負担がかかります。ただ、両家の絆が深まり二人の決意が新たになる思い出の1日になることは確かです。

結納をするかしないか、どちらにしても結納の内容をよく確かめてから決めましょう。もし両家の考えに相違がある場合は、すり合わせをすることが大切です。

ここからは結納の意味合いや、結納を行うか省略するかを決める際のポイントや、さらには結納の進め方をみていきます。また、結納以外の婚約のスタイルについて紹介します。

結納は1400年前からの伝統的儀式

結納は古くからある伝統的な儀式です。その起源は1400年前の仁徳天皇の時代にさかのぼるといわれています。日本書紀には当時の皇太子の婚約に際して行われた「納采(のうさい)の儀」が最初の結納と記されています。

昔の考え方では、「結婚」は家と家の結びつきが重要でした。結婚を機に両家の親族が増えることは子孫繁栄につながる非常におめでたいことでした。

そのため、婚約の儀礼である結納は当初、両家が集まり繁栄を祝う宴会がおこなわれていました。それがいつしかお祝いの縁起物や、金品を贈り合う儀式へと発展しました。

いろいろある結納のメリット

結納は費用も手間もかかる儀式です。本来は口約束だけでも婚約は成立します。しかし結納、もしくはそれに準ずるセレモニーや婚約パーティを開くことで、二人の約束がより確実なものになります。

結婚することへの自覚が生まれ、責任感や決意も強くなります。そして、婚約の事実を公表しておくことで法的な責任も発生します。そのため万が一、婚約破棄などの事態になった場合のトラブル回避にもつながります。

二人と、両家の両親にとってよい形を選んで、希望のスタイルで何らかの婚約の儀式を考えていきましょう。結納をしっかりおこなうことは男性側からの誠意の表れともいえるものです。そのため、内容を知ったうえでよい形式を見つけましょう。

結納の形式を知っておこう(正式結納・略式結納)

結納には大きく二つの形式があります。一つが「正式結納」もう一つが「略式結納」です。

正式結納では仲人が両家の間を往復し、新郎家、新婦家それぞれに結納品を届けるという伝統的な形式です。

一方、略式結納は両家が一堂に集まり結納を行う形式です。場所は新婦宅や、結婚式場、ホテル、料亭などで行われます。

略式結納に仲人が立会い両家の間に立って結納を進行する場合と、仲人なしで結納を進めるやり方があります。現在もっとも多く行われているのが仲人なしの略式結納スタイルです。仲人なしの場合、進行役は新郎の父親がつとめるのが一般的です。

同じ略式結納であっても、地域によって結納品の内容や贈り方に違いがあります。主に関東式関西式に分かれています。

結納品の内容と、地域による贈り方の違い

結納品とは、結納の際に相手の家に贈る縁起物のことです。縁起物に結納金を含めた一式を結納品といいます。縁起物にはそれぞれに、おめでたい意味合いの名前がついています。

結納品は、インターネットでも購入できますが、デパートやホテル、結納品の専門店などで揃えると、品目や内容について相談ができます。結納品は、地域によるしきたりや両家の考え方をふまえて考えることが大切です。そのため、専門家に相談できるところで購入する方が安心です。

・関東式、関西式 贈り方の違い

関東式では新郎家、新婦家双方が結納品を贈り交わすというスタイルです。一方、関西式は新郎家(名字を名乗る側)から新婦家に結納品を贈る(女性の側からは贈らない)というスタイルです。このように結納の贈り方にも地域によって違いがあります。

〈関東式の結納品の一例〉

関東式は結納品を一式まとめて一つの台にのせます。

・目録(もくろく):関東の結納では目録に結納品の品目を記します。

・長熨斗(ながのし):干したあわびを伸ばしたもので「長寿」の象徴です。

・金宝包(きんぽうづつみ)、結納金:関東では「御帯料(おんおびりょう)」、関西では「小袖料(こそでりょう)、女性からの結納金に対するお返しは「御袴料(おんはかまりょう)」と記します。

・末広(すえひろ):純白の扇子のことで純真無垢と末広がりで「家内繁栄」を象徴します。

・友志良賀(ともしらが):白色の麻糸で夫婦が共に白髪になるまで添い遂げられるようにと願いを込めます。

・子生婦(こんぶ):昆布のことで子宝に恵まれるようにと願います。

・寿留女(するめ):日持ちがすることから末永い縁を願い、噛むほどに味のでる夫婦を表します。

・勝男武士(かつおぶし):鰹節のことで、男性のたくましさを表します。

・家内喜多留(やなぎだる):祝酒の樽のこと。本来は酒樽を贈るが酒肴料(しゅこうりょう・酒と肴の現物に代わる金銭)として現金を包む場合が多い。

〈関西式の結納品の一例〉

一方、関西式は一品ずつ台にのせて飾るのが一般的です。立体的で豪華に飾ります。

・子生婦(こんぶ)昆布

・優美和/結美和(ゆびわ) 婚約指輪のこと。

・寿留女(するめ)

・長熨斗(ながのし):鶴飾り

・高砂人形(たかさごにんぎょう):翁(おきな)と姥(うば)の人形

・末広(すえひろ):亀飾り

・松魚料(まつうおりょう)梅飾り:結納の後に新婦家の用意したご馳走を頂くとき、その食事代として新郎家が納めるのが松魚料。昔は実際に魚を贈っていました。

・家内喜多留(やなぎだる):竹飾り

・小袖料または御帯料(結納金):松飾り

結納品の品目は九品目が正式ですが、簡略化して五品、七品にすることも可能です。ただし、品数は奇数にします。理由は「割り切れない」という意味合いと、中国の陰陽五行説によるものです。

古代中国では、自然界のあらゆるものを陰(いん)と陽(よう)に分けました。たとえば、太陽は陽で月は陰、奇数が陽で偶数が陰、というものです。こうした思想を陰陽思想といい、陽である奇数が良いとされています。

結納金の金額と地域による贈り方の違い

結納金は新郎側(名字を名乗る側)から新婦側に、結婚の支度金として贈られるお金のことです。昔は帯や着物の反物を贈ったことから「御帯料(おんおびりょう)」「小袖料(こそでりょう)」などと呼ばれました。

結納金は振り込みなどではなく、現金で贈るのがマナーです。形に思いを込めて贈りましょう。

男性が婿養子になる場合は男性側と女性側の立場が逆になります。結納金は女性側が納めます。

結納金の相場と結納返し

結納金の額の相場は男性の月収の2~3か月分が目安です。50万、70万、100万など、あたまの数字を奇数にした金額にすることが多いです。そして、女性の側からお礼として男性側に贈られるのが「結納返し」です。関東では結納返しのことを「御袴料(おんはかまりょう)」と呼び、結納金の半額程度を贈ります。

中には、結納返しを省略し、あらかじめ半額を差し引いた金額を包む場合があります。また、結納金そのものを省略して、婚約指輪や婚約記念品のみを贈るケースも増えています。

なお、関西では一般的に結納返しは無し、もしくは結納金の1割程度を贈るか、腕時計やスーツなどの品物を贈るケースがあります。

結納で必要な書類

結納の際には、「目録」「受書」「家族書」「親族書」を取り交わします。

目録は結納品の内容や数を記したものです。受書は結納品を受け取ったという証の受領書のようなものです。関東式では結納品を双方で贈り合うため、両家それぞれが目録と受書を用意します。

一方の関西式では、結納品は男性側(名字を名乗る側)から贈られ、女性側は受け取るのみですので女性側が受書を用意します。

家族書には家族の氏名と続柄を書き、結びに本人の名前を書きます。親族書は既婚の兄弟姉妹や別居の祖父母、三親等までの親族の氏名と続柄を記入します。

書くときは、奉書紙(ほうしょがみ)という厚手の和紙に毛筆で書きます。結納セットを購入する場合は専用の用紙が含まれていますので、付属の用紙に必要事項を記入して問題ありません。

結納や食事会の日取りと場所を決める際に考えるべきこと

結納や顔合わせの食事会をおこなう時期は一般的に、結婚式の半年~3か月前です。

・日程について

日柄に重きを置く場合は、吉日といわれている大安、先勝、友引を選びます。午前中から結納をスタートし、引き続き昼食という流れが多いです。

日柄についてこだわらない場合は、参加者にとって都合の良い日を選んでかまいません。しかし、開始時間については「おめでたい事柄は午前中におこなうのが良い」というのが慣例になっているため午前スタートが無難です。ただ、厳密に守らなければならないものでもありませんので、両家が納得であれば午後スタートでも問題ありません。

・場所について

新郎新婦の自宅、ホテル、専門式場、レストラン料亭などがあります。ここでは比較的多くおこなわれている、仲人なしで一同が同じ場所に集まる略式結納の場合をみていきます。

略式結納の場所として、以前は女性宅でおこなわれることが多かったですが、現在はホテル、専門式場、レストランなどを利用する人が多いです。

ホテルや式場では「結納パック」というすべてが用意されたパッケージプランがあります。何かと手間がかかる結納ですが、このようなプランを利用すると会場のスタッフのサポートもありますので、慣れない結納が楽におこなえます。

結納の際の進行役は、仲人がいる場合は仲人です。仲人なしの場合は新郎の父親がつとめるのが通常です。ホテル式場のパックプランの場合は、会場スタッフに進行をしてもらうことも可能な場合があります。

略式結納と顔合わせの食事会の流れ

ここからは実際の「略式結納」と「顔合わせの食事会」それぞれの流れをみていきます。

略式結納(仲人なし・関東式の場合)

1.結納品を準備する

上座の右側に男性側の結納品、左側に女性側の結納品を置きます。

2.はじまりの挨拶

男性の父親が挨拶をします。「この度は佐藤様のご長女明子様(新婦)と私どもの次男雄二(新郎)に、大変結構なご縁を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。本日はお日柄もよく、結納の儀を執りおこなわせて頂きます」という感じになります。

3.男性側から女性側に結納品を納める

男性の母親が結納品を盆ごと持ち、女性の前へ運びます。関西式の場合、結納品は飾ったままで、目録のみを渡します。

男性の父親は「こちらが雄二からの結納でございます。いくひさしくお納めください」といいます。

4.女性側が目録を確認し、受書を渡す

女性本人、父親、母親が目録に目を通します。

女性は「ありがとうございます。いくひさしくお受けいたします」のように述べます。

女性の母親が受書を男性の前に運びます。

女性の父親は「こちらは明子からの受書でございます。いくひさしくお納めください」のようにいいます。

5.女性側から男性側に結納品を納める(※関西式では女性からは納めないので終了)

女性の母親が結納品を盆ごと持ち、男性の前へ運びます。

女性の父親は「こちらが明子からの結納でございます。いくしさしくお納めください」のようにいいます。

6.男性側が目録を確認し、受書を渡す

男性本人、父親、母親が目録に目を通します。

男性は「ありがとうございます。いくひさしくお受けいたします」のようにいいます。

男性の母親が受書を女性の前に運びます。

男性の父親は「こちらは雄二からの受書でございます。いくひさしくお納めください」といいます。

ここまでが結納です。ここで婚約指輪が贈られることもあります。

7.結びの挨拶

男性の父親は結びにあたり「本日は誠にありがとうございました。おかげさまで無事に結納を納めることができました。今後ともいくひさしくよろしくお願いします」と挨拶をします。

女性の父親からは「こちらこそありがとうございました。今後とも末永くよろしくお願いします」のようにいいます。

この後は会食という運びとなります。原則的に女性側が準備をします。

結納の口上(こうじょう・やり取りする際の言葉)については、紙に書いた原稿を読んでもかまいません。なお「別れる」「切れる」などのおめでたい場にふさわしくない葉は使わないように注意しましょう。

また、贈られた結納の品物は結婚式まで床の間などに飾っておきます。結婚式が終わった後は、食べられるものはいただいて、飾り物はしまっておきます。処分する場合は神社で焼却してもらいます。

顔合わせの食事会をする場合

ただ、かしこまった結納の儀式はおこなわず、結納代わりに顔合わせの食事会を行うケースが増えています。首都圏では主流のスタイルになっています。

食事会のみおこなう場合や、食事会にプラスして婚約記念品を交換する場合があります。食事会のスタイルには特にしきたりなどはありませんので二人と両家で話し合い、自由にセッティングしましょう。

食事会の費用については本人たちで負担する場合があれば、両家で折半する場合もあります。どちらかが遠方の場合は交通費や宿泊費用もかかるため、負担が偏りすぎないように配慮しましょう。

食事会の流れの一例

・はじまりの挨拶と乾杯(進行は男性の父親、もしくは新郎新婦本人)

・家族の紹介

・婚約記念品の交換(指輪や時計などの交換をし披露する)

・食事歓談 和やかな会話で交流を深めましょう

・結びの挨拶

お店選びについては、カジュアルすぎるところは避けた方がよいです。また、料理内容はコース料理にしたほうがスムーズです。どちらかの自宅でおこなう場合は、準備する側の負担が大きくなりますのでケータリングや自宅に出張してくれるシェフに依頼するのもひとつの方法です。

結納にふさわしい服装

結納の形式はさまざまですので服装もふさわしいものを選びましょう。もっとも大切なことは「両家の格を合わせること」です。つまり、服装のフォーマル度のランクを同等にするのです。本人たちと両親全員のフォーマル度合いをそろえましょう。

仲人がいる場合は事前に両家がどのような服装にするかについて伝えておきましょう。仲人にも格を合わせてもらうことが望ましいです。

結納はフォーマルな儀式のため正装が基本です。

新郎はダークスーツか、ブラックスーツに白いワイシャツ。白かシルバーのネクタイを用意します。靴と靴下は黒を着用します。

新婦は和装の場合、振袖または訪問着がふさわしいです。着物といっても小紋やかすりなどのカジュアルなものは避けましょう。洋装の場合、ワンピースやスーツで明るめの上品な色味のものを用意しましょう。スカートが短いものや露出の多い派手な印象の服はNGです。

父親はダークスーツかブラックスーツに白いワイシャツ、白かシルバーのネクタイをします。靴と靴下は黒を用意しましょう。

母親は着物の場合、紋付きの色無地か訪問着にします。洋装の場合、スーツかワンピースがよいでしょう。親は本人たちよりも少し控えめな印象の方がよいです。

結納を知り、上手に取り入れることは未来の幸せにつながる

ここまで、結納について紹介してきました。さまざまなスタイルを選ぶことが可能な時代においても、根底にある婚約の儀式の意味合いは昔から変わりません。

それは、「人の心は変化しやすいもの、移ろいやすいものである」ということです。どんなに誠実に愛情を育ててきた二人といっても、日々刻々と人間は成長し、変化します。それが決定的な違いになれば破談という事態になります。

そこまでの波乱ではなくても、結婚式を迎えるまでの期間を過ごすうちにはケンカしたり、すれ違ったりすることもあるでしょう。思わず決意が揺らいだり、不安にかられたりすることもあるかもしれません。それはおそらく昔よりも、現代を生きる我々のほうが選択肢が多く、自由な故に不安定さもまた大きいのではないでしょうか。

せっかく結ばれた素晴らしい縁を確実にし、お互いの決意を高めあう努力は惜しまないようにしましょう。プロポーズされたから、結婚式を挙げたから終わりではありません。

また、結婚の前に相手の両親や家族に会う機会はたくさんあるほどよいです。人は顔を合わせる頻度が多いほど親しみや愛着が育つものです。両家が円満であることは、二人の結婚生活を充実させるために欠かせないものです。

確かに面倒で費用のかかる結納ですが、ぜひ古き良き伝統をかみしめながら幸せの第一歩を歩んでください。